概要
紅葉国は、その大半が海である。
海底都市や都市船に移住する以前より
国内に点在する島々の間を移動するために船は大活躍していた。
そして船では、鼠の被害を防ぐためという実用的な理由、または単に猫好きが船乗りに多かったため
昔から猫が乗り込んでいた。
紅葉国では猫との縁が船上で結ばれていたのだ。
猫を飼っていたり身近にいる人はご存じであろうが、猫は、人の仕草をじっと見ていることがある。
仕事のため机に向かっていようとも、料理などで近づいてきたら困るときも、まったく変わらない。
あるとき、周囲の見張りをしている船乗りが
猫が例によってじっと彼を見ていることに気付いて「手伝ってみるか?」と声をかけてみた。
彼の周囲の船乗りは、おいおいどうするんだと笑っていたが
話しかけられた猫は神妙な顔でにゃあ、と返事をして彼の肩に乗ってきた。
そして1人と1匹は、見る方向を分担しての周辺の見張りを開始したのだった。
猫は注意すべきものを見つけると、船乗りの肩に爪をたて、フーとうなり、彼の注意を促した。
船乗りは「痛いよ」と笑いながらも、猫の注意する場所を再確認しては仲間への報告を行った。
猫が発見したんだよとの説明を付け加えた上で。
結果、この船に乗り込んだ者たちは、船が港に着く頃にはすっかり猫を仲間として扱っていた。
彼らは、船乗り仲間たちに猫のことを話した。
「うちの猫はこんなにかわいいんだぜ」という船乗り同士の自慢話の延長ではあったのだが
この話題はすぐに船乗り達の間に広まった。
もしかして、他にも俺たちといっしょに働いてくれる猫がいるんじゃないか?と考えた彼らは
猫の様子を見ては、だめでもともと、声をかけてみたのだった。
猫達は、あるときはやる気なさげに昼寝を続け、またある時は目を輝かせて彼らと共に働いた。
これが、猫士のはじまりと言われている。
船乗りたちは猫の種類にこだわらず、船には自分が好きな猫を乗せていたため
猫の種類は様々である。
あえて種類を呼ぶなら、紅葉猫たちは「雑種」になるのだろう。
やがて、猫たちを、本格的に人間のパートナーとして育てられないかという提案がなされた。
人間が学校に通うのと同様
やる気のある猫たちは学校に通っていろんな可能性を育ててみるというものである。
試しに人間の学校の一部を間借りして、希望する猫がいないか呼びかけてみたところ
予想以上の猫たちが集まってきた。
募集要項の三食昼寝付につられたとも言われているが、とにかく準備は整ったのである。
授業は、意思疎通を容易にするための人間語授業からはじまる。
なにしろ「にゃあ」だけでは理解ができたかどうかが伝わらないのだ。
会話を容易にしたり人間仕様である各種道具を扱うために、
人間に化けるための変化の術を教える時間も確保された。
変化の術は、王猫のもみじ様より教えてもらったものである。
もみじ様が猫又であるためなのか、変化の術では元の姿の特徴が残るのかは不明であるが
変化の術を使用すると、猫たちは猫耳猫しっぽの小柄な人の姿となる。
現在では猫用の装備もあるため、猫の姿か人間に化けるかは猫士自身が選ぶこととなっているが
猫用学校システム導入当初は、人間語授業の次に大切とされていた。
余談だが、人間が猫士と組む際、とりわけコパイロット(猫妖精)となる際に猫耳猫しっぽをつけるのは
猫士たちのもっとも適性が高い職業であったため、人間から猫たちに敬意を表しているのである。
人間語についていける猫は、人間の学生と混じって普通に授業を受ける。
慣れない猫たちは、人間語の学習をメインに行うこととなる。
人間の生徒たちと混ざって生活を行うからか、
人間語の会話がうまくいかない猫もなんとなく意思疎通はできることが多い。
人間語が苦手な猫でも、この交流を通じて思わぬ才能を見いだされ、結果猫士となることがある。
猫たちは、人間語を覚えても語尾に「にゃ」をつける癖がなぜかなくならないが
これは、猫であることの主張だろうと黙認されている。
共に生活する学生たちも、この癖がうつってしまい、普段から「にゃ」をつけてしまうことが多いようだ。
猫たちは、卒業時にはいくつかの道が示される。
普通に猫として生きる道、猫士を目指す道、軍学校に進む道である。
すぐに猫士として実戦に出ることを希望する猫、さらに知識を得たい猫と希望が様々であるため
人間と同様の試験を受けた上で、軍学校に進むことも許可されているのである。