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猫妖精と学生たち
猫妖精は、紅葉国では大半が学生でもある。
身長体重が育ちきっていない学生の間が、狭いコックピットに向いている適性もあるし
思考の柔軟性と敏捷性についても若い内が優秀だからで、これは猫士でも例外ではない。
寮では人間と猫がいっしょに暮らしながら、互いのことを理解していく。
人間の学生がよく「にゃ」という語尾をつけて話すのは
猫士たちとの生活で、しゃべり方が似てくるからだ。
これは、人間同士の方言会話で思い知る人もいるだろう。
猫妖精の道を進む猫たちは、潜水艦乗りになることが多いのも特徴だ。
狭い場所にも集団行動にも慣れている強みだろう。
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「にゃーにゃー?(次は人間といっしょの授業だね)」
「にゃー…(難しいなあ)」
「にゃにゃ、にゃー(でも、がんばらないと)」
「にゃふ、にゃあにゃあ(うん、実習の単位はやく取りたいから)」
猫士たちは、人間語を理解できているが、イコール話せるわけではない。
このため、授業は人間語が話せるかどうかで分ける場合がある。
しかし実習は、言語以外のコミュニケーションも重視されているため、
人間と猫がいっしょになって行うものが多いのである。
学生寮生活を共にしているためか、困ることはあまりない。
「よろしくにゃー」
「よろしくお願いしまーす!」
「にゃー!」
今日は、シミュレーターを使ったI=D実習である。
パイロット役とコパイ役を決めてのチーム対抗戦だ。
I=Dでは、人間語の不得意な猫は、必ず得意な猫もいっしょに組むようにしている。
こうすることで、言葉でないと伝えにくい内容もフォローできるのだ。
裏返すと、通訳も兼ねる猫の負担は大きいので
誰がどういった操作や処理を担当するのか、事前の打ち合わせが必要となる。
この実習を繰り返すことで、実戦でも『パイロットだから』『コパイだから』を言い訳にせず
同じ機体を動かす仲間としてフォローしあう関係であることを彼らは理解していく。
そして、実習開始だ。
「にゃー、にゃ!」
いーにゃがレーダーを見て説明を行う。
「右前方に影、味方の配置から推測するに敵I=Dの可能性高いにゃ」
さくらが即説明を行う、火器制御も担当だが、こちらはまだ出番ではない。
「了解、手前の丘を利用して隠れるにゃ」
これは人間の由美(語尾は演習中のみらしい)、主に機体操縦を担当している。
「にゃー!」
「…と、丘はすでに他の味方がいるのにゃ。
じゃあむしろ、あてにして囮になるから連絡つけるにゃ」
そして味方機との連携相談がはじまる。
「さくらー、よろしくにゃ」
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今日の実習は無事に終了した。
「お疲れさまにゃー」
「にゃー!」
猫たちの声はまだまだ元気。
「お疲れさまでした! つっかれたー」
語尾が普通に戻った由美は、声色もぐったり。
しかし、シミュレーターを終了して椅子に座ると、3人とも疲れきっていたのを自覚する。
3人よろけながら、最後のミーティングを行う。
「まあ、勝ったからおっけーにゃ」
「そうだけどっ」
由美は、スポーツドリンクを一気飲みしてテーブルに倒れ伏す。
「にゃー、にゃにゃにゃふ」
「だにゃあ、まだ動きが甘いにゃ」
顔を上げる元気が出てきた猫たちは
シートと首っぴきになって、実習結果をあれこれ唸っているところだ。
彼らにとって、まだ実習は終わってないらしい。
授業が終わったと判断した次の瞬間には、昼寝開始がお約束だからだ。
「でも、さっきはいーにゃのレーダー確認のおかげで助かったよ」
「にゃ? にゃにゃにゃ」
いーにゃは由美の言葉に、目をくるくるさせている。
「照れてるにゃー(ぐりぐり)」
「にゃー」
「うん、由美の無理矢理ターンもすごかったにゃ」
「だ、だって。囮っていった…」
データシートを見て、あらためて由美は自分の操縦にあきれた。
シミュレーターとはいえ、よく壊れたという判定をされなかったと思う。
「にゃにゃ、にゃ」
「だねー、この機体って負荷ここまでかけても大丈夫と」
「理論値だから、実機でも確認しないとだめにゃー」
「じゃあ、今度やってみる?」
「にゃー!」
「壊したらどうするにゃ!」
「にゃにゃ…」
「そのときは、居残りという名目で整備実習もさせてもらうわよ」
由美はウインクをした。
学生たちは、こうやって成長していくものらしい。