遠い思い出

雷球のことをあれこれ質問されているうちに、師匠のことを少し思い出した。
この力に目覚めてしばらくの頃。

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俺はいつもの調子で、手から火花を出しながらつぶやいた。
「これが、そんな強くなるのかねえ…」
「なるさ」
おっさんは、軽く答えて同じように火花を出した。
明らかに威力が違うのがわかる様子。
そしてにやりと笑う。
「ゲーセンのコイン取り出しに使うための力じゃないってことだ」
「げえ、なんでそれを」
まずい。
もしかして、他にもあれやこれやの悪さバレてないか。
「先日、連れとコソコソ話していたのは全部聞いている」
笑いながら言う様子が、正直こわい
てことは、バレたのはアレとアレと…かなりまずくないか。
「何度もはやってねーよ」
今さらだとは思うが、いちおうフォローしておく。
なってない気がするのは見ないふりで。
「そういうことにしておくとしよう。あとは、煙草の火だったか?」
「便利なんだよ。ライターいらねーし」
見つかったとしても、火をつける道具がないならとぼけるのも可能だ。
このおっさんにはとっくに知られてるから今さらだがな。

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俺的にやばい話はおいといて。
単刀直入にきいてしまおう。
「それで、どうやったら強くなれる?」
おっさんは苦笑した。
「そうだな……まずは雷球の使い方を覚えることだ」
「使い方って、ぶつける以外にか?」
正直他に思いつかん。
「雷球を直接触れさせるのが、いちばん簡単な攻撃だな」
煙草に火をつけながら、答え始めた。
「着てる服、皮膚、筋肉、骨、頭髪…どれも電気を通すから、人体への直接攻撃は簡単だ。
当てさえすればどうにでもなる」
「ああ」
威力を調整すれば、倒すつもりの攻撃から
単に動けなくさせるだけのものまで調節が可能というのもわかった。
「直接ぶつける必要もないぞ?
あらかじめ水を巻いておいて、そこに触れた瞬間に雷球の電気を伝わせる」
「えげつねーな」
状況を想像して、頭痛くなった。
「応用と言え。
相手が複数のときには有効な手だが、他人を巻き込まないように注意する必要がある」
誰であれ触れたら巻き込むからだな。
だからって、わざわざ濡れたところに敵が踏み込むだろうか。
「そうなるように、頭を使うんだ。
なにも事前に水撒きしなくたって、相手に水浴びさせてしまえばいいことだろう」
そういうことか。
さらに濡れる必要がある状況への誘導もレクチャーしてもらう。

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雷球をそのまま使う方法だけでも、頭の中身あふれるくらい教わった。
その応用ときたら、けっきょく物理の教科書まで持ち出されたもんだ。
「なんで電気なのに磁石になるんだよ!」
このレベルだったからな。
「お前、学校ほんとに行ってるのか?」
「行ってるさ。寝てるか屋上いくこと多いけど」
いちおう出席。成績はぼろぼろ。
よくぞ卒業できたものだ。
「ボンクラもいいところだな」
「うるせー」
何をやりたいのかわからずに
なんとなく街を彷徨っては退屈しのぎに明け暮れていた。
目的ができた後は、別の意味で学校にはほとんど行かなくなっていたし。

磁気への応用、これを利用した移動方法や隠密行動。
雷球への対策が行われていたときの使用方法。
片っ端から説明や実戦で教わっていった。

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言ってしまえば人殺しの方法を教わっていたのだが、師匠は必ず最後に一言付け加えた。
「戦うだけではない。
大事なものを守ってみせるのが、本当の戦い方だ」
戦い、守るべきものを守り抜く。
何度も繰り返しては、戦いの中で何度も実践して見せた。
俺はどこまでできているだろうか。
……何度も泣かせているようでは、まだまだだな。
声が聞こえたような気がした。

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