今後の展望

都市船、空を飛ぶ
【都市船、空を飛ぶ】
そう題された都市船離水改造プロジェクトの一次資料集には、3Dモデルで宇宙に漂う都市船の図が添付されていた。
勿論イメージ映像である。
が、元々亀っぽい形をしている都市船がふわふわと宇宙に浮く様は、割とシュールだった。

見かけとは裏腹に、都市船の離水改造には実際都市船を飛ばす以上の目論見がある。
最も大きな所は、今後の藩国船の建造を見据えた技術開発である。
要諦は新しい技術を作るという点ではなく、技術運用という点に注目が置かれている。
これは産業育成準備でも特記されていた安全という分野の確立という意味合いが強い。

都市船と言えば紅葉国の多くの民が生活する居住空間である。
これを改造するとなれば、充分以上の検討が行われることになる。
重力発生装置を無理に小型化しないという事や
新規の技術を取り入れるよりも既存の安全性が保証されている物を利用することなども、その点を考慮した結果である。
また、ここでの開発・運用にいたるまでの過程は全て記録され、後の藩国船の建造のための重要な礎とすることになる。

離水改造計画裏話

「というか、海の一族やるぞー、じゃなかったんですか。空飛んじゃうじゃないですか」
「どっちも青いし似たようなものよ」

しれっ、と言うには、いささか圧力の高い笑顔だった。
のけぞる朝霧。顔を近づけられたわけでもないのに、何故自分は退いているんだ。
悩みが渦を巻いて頭の中でちかちかした。
ついでにくらくらして、よろけた。最近寝不足なのだった。
そこに、何かの呪文のように次々注文がお届けされる。

「で、あわせて宇宙対応する。手すり作ったり磁力ブーツ作ったり。
すると大規模に工事を発注することになるからお金も巡る。
それで、これにかこけつて福祉方面も対応する。カジノの儲け全額投入しよう」
「ああ。僕もすったなぁ」
「巻き上げたのはわたしじゃないわよ」

というかお前もやってたんかい、という目を向けられた。……。駄目だ。そらした。
へーふーんほーとわざとらしい声が響く。
その後ろの方で神室が遠い目をしていた。マユミが気付いて、微妙な笑顔を浮かべた。

「まあでも。都市船が空飛ぶなら、やっぱり歌って踊るためのステージは必要ですよね」
「なんでじゃ」
ルウシィ、キック。吹っ飛ぶ朝霧。壁に打ち付けられた。ずるずると落ちて、ぴくりともしない。
数日前に参考資料として某シリーズのDVD一式を藩王に渡されたのだった。
彼はここ数日の不足を取り戻すように眠りについた。それを無視して、ルウシィは堂々と言う。
「先に作る物があるでしょう」

作る物。全員が一瞬考え込んだ。

「女王アイドレスからキックが抜けないようにするための練習場とか」これは美弥。
「宇宙用遊園地とか」これは神室。
「カジノとか」で、これがルウシィ。
意識不明の朝霧の中では、変形して巨大メカになる都市船の姿が合った。

「あの……みなさん……」
マユミの顔がややひきつっていた。
そりゃまあ、全員が全員真剣な顔で言ってるんだからそうもなる。

「というか。誰がサービスシーンを真っ先に考えろと」
ルウシィ、月を真っ二つに割ったような半眼で全員を睨めつけた。
しかししばらくして、ぱっと笑顔を閃かせた。考えを改めたらしい。
「サービスシーンしかできてなかったら死刑と言うことで許す」
(ああ、いつものルウシィさんだ)

という事で、作業に入る。

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まあ真面目な話もした。例えば最先端技術は普通は使えないとか。
何しろ運用ノウハウがないのである。
工学的には最先端技術というのは「まずそれを開発すること」が目的にあって、
それが使えるだけの物であるかどうかはまったく未知数なのである。
実際ではそれをいきなり使うことはあんまりないが、アイドレスではそれが使えるので爆発する事が多い。

この点、紅葉国の首脳部は工学系PLが集まっているので話は早かった。
そういうわけで、基本方針は「枯れた技術、かつ、やばいコトしないように」という事になった。
なので重力発生装置も無理に小型化とかはさせない事になった。

ついでに言えば、ここ最近のどたばたもあって、国民もPLも盛大に疲労している。
あんまり無茶やってもできないし、というか普通はできないのだけれど
アイドレスの場合できたという事になって無茶な設定が付与されること請け合いなので、
実際の動きは挙動は情勢を見て慎重に決める事になった。

何しろ、計画は幾つも連鎖している。

都市船改造は宇宙進出へのきっかけであり、それは藩国船の建造にもつながっている。
とすると、ただ都市船を離水改造するだけではなくて、
宇宙対応するような生活用品の生産、道路整備、家電製品の改造なども考える必要が出てくる。
またこのように生活環境が変わると、必需品も変化する。
また他国との物理的な距離によっては国々とのパワーバランス、経済的な関わり方も変わってくるから
その対応が必要になる。
紅葉国ではこれは、一時的な計画経済の実施により対応する事が検討されており
すでにプランが立ち上げられている。
他にも、この上で最近規模がでかくなりすぎているカジノの儲けを福祉に投下し
計画経済の導入や離水改造、生活変化による問題を吸収する準備がなされている。
並列して、破産者の休載として機能していたファームも
生活福祉の向上のために割り当てる事で問題の吸収率を高める方針。
しかしそうすると破産者の対応はどうするのという事になるが
ここは計画経済の導入や、福祉の圧倒的な強化による再配分で対応する目論見。
アイドレス的には、「第二孤児院(施設)」派生の「福祉充実(イベント)」の開示なども検討されている。

また、経済麻痺の影響で酸素などの供給が滞ったりした事にも対応が考えられた。
ややこしい事ではなく、今後も皆、閉鎖系で暮らす事を考えるのだから
そのあたり最低限生活に必要なものは公営にして行き渡るようにするという事になった。
このあたりは生活福祉の一環でもある。

宇宙に飛び出すだけでひどい手間である。
しかし、常識で考えて見れば、生活環境が激変するんだから当たり前である。
それを一発解決する素晴らしい方法というのは、必ずしもあるわけじゃない。

つまるところ、全部の方針をまとめると。
当たり前の苦労が当たり前のようにのしかかってくるのだから
そこはまあ、当たり前のように悩んだり苦しんだりしながら対応しよう、という事になった。

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