開発

都市船の離水改造に伴う検討事項は、船体構造の精査や推進機構の開発といった開発方面の取り組みだけではすまなかった。
そもそもにして、離水改造自体、宇宙進出を見据えてのものである。
となれば、宇宙環境における生活や非常事態への対応といった事も考慮する必要がある。

開発のコンセプトは安全性。
生活に関わるので、原則すでにある程度安全性が保証されている枯れた技術を利用しようという方向性だった。
都市船設計図

飛行システム

「全長が1.4倍、全高が1.3倍になってるんだが、大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
~とある海底研究都市での会話~

「都市船を"飛ばす"」
随分と昔から国民の間で噂されていた話がついに実現するときが、来た。
こんな大質量が浮くはずがない、と笑う人も大勢いた。だが実現した。
その方法とは…何のことはない『力業』である。

まず大気圏突破用の前部装甲艦橋ユニットを取り付ける事により、
都市船をリフティングボディになるように整形する。これにて"揚力"が。
更に後部ユニットの増設及び海底研究都市での効率化したエンジンを用いた
大出力のブースターユニットを2基増設する。これにて"推進力"が。

"揚力"と"推進力"による『力業』。TLOを使わない飛行方法を目指した結果がこれである。

重力システム

現在紅葉国の都市船は海中での運用が主とされている。
そのため深海にも負けない装甲や高度な循環系を保有し、閉鎖空間での生活という意味では、
海が宇宙に変わってもそのまま運用できる部分は多々あった。

ただし、そのままでは不都合な点も複数在る。
例えば重力である。
長らく1G環境下で暮らしてきた紅葉国民が、これからいきなり宇宙環境に適応するというのは難しい。
都市船内部に建造した施設も、多くが1G環境で運用することが前提とされているものであり、
無重力下では無数の問題が発生すると考えられる。

このため、重力発生装置を建造することがまず必要とされた。
重力発生装置は下手に小型化をすればTLOになるなどの危険性を含んでいる。
しかし今回の場合、都市船という巨大なシステムに付与することが決定されているため、
I=Dなどで必要とするような極度に小型化したもの、複雑な出力制御は必要としていない。
都市船の下部に新しいブロックをつけ、その一層をまるまる重力発生装置とする事で
規模の問題は解決することになった。

むしろ必要とされたのは、壊れた時の安全性である。
絶対に壊れないシステムを作ろうというのは工学的なアプローチとは言えないと早期から結論が出ている。
システム安全の面から考えても、システムとは堅牢性を重視する一方で、
壊れた時に安全側に壊れるよう=被害を局限できるようにするよう設計することが大事だと言われている。

そこでシステムはあらかじめ設計者が意図したように停止するような仕組みとし、
都市船と同じく定期的なメンテナンス、非常時にはなるべく簡易に修理を行える前提での設計を行う事となった。

生活上の工夫

これまでは星の生み出す重力環境下で生活してきたが
今後は非常時には止まるかもしれない重力発生装置がその肩代わりをすることになる。
それはつまり、非常時=無重力状態となった時の対応を日頃から考えた町作り・日用品作りを行うということである。

ということで、生活の身近なところでも多数の工夫をする事になった。
手すりの増設や、冷蔵庫等の家電製品用の突っ張り棒、固定用のマグネットなどがたくさん作られた。
道路と靴にも電磁石が導入された。
高い所でもめくれないスカートを開発しようとした猛者もいたらしいが、理論上不可能という事から
「残念だったな」と書かれたスパッツが作られたという話もある。

もう少し規模の大きいところでは、鉄道等をモノレール式に修正して車両を路線上に固定する仕組みや、
駐車場における車両の固定装置などが挙げられる。
また建物の中にも壁に掴みやすいバーが設置されるなどの処置がなされた。

その他、新環境適応した日用品を巡る開発は国内外の開発・販売競争を一時期、ずいぶんと加熱させることになる。

拡張性

紅葉国は海底都市移住以降、人口の高密度化に悩まされてきた。
都市船はこの問題をスレーブシップを用いることで解決した。
無論、このスレーブシップ。離水改造された都市船にも付随している。

都市船時点で用いられていた居住型・環境型・生産開発型・研究型の4種なのは変わらない。
しかしながら、宇宙に出るにあたり多くのマイナーチェンジが与えられている。
開発者曰く、都市船と同様の重力制御装置・宇宙線対策・大型ソーラーパネル+太陽帆の付与…
その過程で大きさも数割増になってしまっているが、宇宙で製造するため問題ない。
都市船の後ろについた数十隻の付随船が一斉にソーラーパネルを展開する姿は、圧観である。

外部装甲

深海では基本的に『圧壊しないこと』『浸水しないこと』が重要なポイントだった都市船の構造だった。
浸水しないことは空気の流出を防ぐ事と言い換えると、宇宙環境でも同じ事が言える。
また圧壊しないこと=耐圧性能の高さは、結果として装甲の高強度を生んだが、勿論宇宙環境でも同様に必要となる。
スペースデブリは当然ながら、安全性の面から考えても外からつついて簡単に壊れるような物は生活環境にはしない。

ただ、宇宙環境ではこれに加えて宇宙線の影響を考える必要があった。
地球環境で生活する場合は気にしなくてもいい事だが、宇宙環境では放射線などの影響がある。
そこで装甲には宇宙線対策を講じる必要があり、専用の装甲材の開発のために材料工学分野が推進されることになる。

また大気圏の突破といった、特殊な状況でも耐えられるかどうかといった点も入念にシミュレートすることになった。
同時に、気密が破れたときのための予備装甲の設置や、補修用簡易装甲なども開発される事になった。

宇宙用装備

さて、宇宙である。都市船内部の知恵や装甲の重要性はこれまでに述べた。
この項目はその他諸々である。『こんな事もあろうかと』的に準備する必要がある。
しかしてその実態は、空いたスペースに出来る限り詰め込みたいという勿体無い精神ではあるが。

都市船において内部の透過天板は開くようになっていたが、これはスッパリと機能を封印。
開かなくした分、宇宙線対策や天板の精度を高めている。
 本体両サイドにある「スラスターユニット」。文字通り、左右上下への方向転換を司る。
定位置に防空迎撃システムが付随しており、管制塔の指示により細かなデブリを除去する事が出来る。
 前部装甲艦橋ユニット。大気圏突破のために装甲が分厚くなっているが、それだけではない。
宇宙専用のパッシヴ・アクティブセンサーや太陽帆、大規模デブリ破砕用レーザー等様々な物を搭載している。 また、下部にドックモジュールを搭載。宇宙船舶はもちろん、
資材があればスレーブシップや更に大きい艦船等を建造できる設備や工具、展開ユニットを用意してある。

整備

都市船は、日頃からのメンテナンスを前提とした設計がされている。
このため都市船は常時都市船整備員という形でメンテナンサーが張り付いている。
そこで、宇宙環境での整備に対応するため整備用具も一部更新されることになった。
外壁に貼り付けるような電磁石ブーツや、宇宙空間に流されないためのワイヤーの付きベルト。
移動用のエアーバッグや、宇宙線避けを考えた作業服などもある。 都市船三面図

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