しごとをする おきゅうりょうをもらった

仕事について三日。
だいたいここでの仕事の手順がわかってきたウィルソンは、今日も今日とて仕事である。
彼の一日は寮の二段ベッドの一段目から始まる。
時間になるとのそのそと起きて、ルームメイトと共に作業着に着替えて食堂まで行く。
六時半に開き始める食堂に七時に入って、八時までは自由時間。
大抵の者はルームメイトとぐだぐだ話したりしているが、そうでない人も自室に戻って読書をしていたり、
さっさと職場に出かけたり、それぞれのんびりと過ごしていた。
基本的に衣食住完備であり、施設にも充分な広さが確保されているため不満が出ることは滅多にない。
まあそのぶん、仕事は仕事として結構大変なのだが。

ちなみに。ウィルソンの場合はどうしているかというと、
「よっし、今度は俺の勝ちだ。フルハウス!」
「ごめん、ロイヤルストレートフラッシュなんだ、私」
「ひ、ひどす」

懲りろよ!と全職員から突っ込まれるような事をやっていた。

夕食のデザートを賭けてのポーカーは、今日はササキに軍配が上がったらしい。
食堂の一室であがる悲鳴にササキだけがうはははと笑っていた。
まあそもそもこの施設にやってくる時点で全員運はあてにならないので、その勝敗はかなり一様に分布している。
以前この出来事を見てやめさせようとした職員もいたらしいが、
そのデータが公表されて以来、微妙な顔をしてまあいいかと見過ごすことにしたのだった。

「くそぅ。昨日は俺の勝ちだったのに」
「まああんたの場合勝ってもいいんだけどね」
「そうそう。お前は昼食のポテトをひたすらもっていくだけっていうなんとも平和なやつだからな」
「言われてるよー、ウィル。なんか言い換えしたらどう?」
「ササキは容赦がない」
「私にか!」
そんな雑談をしながらササキのグループは職場に向かっていく。
このグループにはウィルソンの他にも男が二人、女が二人いる。
ササキも含めてちょうどイーブンの比率である。
どこのグループもそうなるように調整されているらしい。
一行は八時になる前に上層のファームに向かった。

ファームとなっている上層は豊かな自然に覆われている。
所々に休憩地点としての施設が設けられているが、基本的には森や草原などが広がっており、
職員達は向かう区画にあわせて仕事が割り振られていた。
たとえば牧場区画の場合は、まずは山羊や牛や羊の面倒を一日かけてみることになる。
平野で羊が草をはんでいるのを見ているうちに、いつの間にか一匹いなくなったりして、
グループ総出で探すことになるということもしばしばあった。
別の動物区画では、動物園の飼育員よろしく動物の世話をしているところもある。
動物だけではない。
植物区画でゴムやアブラヤシの木のプランテーションで働いている者もいるし、綿花の畑の手入れをしている者もいる。
また、このファームの手は実は外にも及んでいる。
紅葉国で言う外とは、つまりは海である。
鯨やイルカ、そのほかさまざまな海棲ほ乳類の生息調査が行われているのである。
ここでの調査結果は国での環境政策に影響している。

「とはいっても、むっちゃ疲れるんですけどね」
その夕方。
デザートを六人分食べて大層ご満悦なササキグループのテーブルでは、打ち上げられた鯨のようにぶっ倒れている五人の男女の姿がある。
今日の彼らの担当はゴムの木のプランテーション。
そこで天然ゴムのタッピングをしていたのである。
といっても、これ自体はたいした手間ではない。
樹液はそのまま中層の工場に向かうパイプへとどんどん落としていくだけでいい。
物によっては木を倒してあつめ換装させ、材木として保存することもあるが、
まあ、人力でやれと言われているわけでもないし(当然ながら重機はある)、結構楽な作業だった。

「よもや、牛の大群が迫ってくるとはおもわなんだ」
「あー。あれは凄かったわよねぇ」
ぐったりと倒れているウィルソンが言えば、
ササキは苦笑して遠い目をした。
他の従業員もあはははと疲れ切った笑いをこぼす。
全員で木登りしたこの思い出は、皆の心を一つにしていた。
「まああれよ。噂に聞く藩王様のキックに比べれば平気なんじゃない?」
「たとえが悪すぎると思うのよ、ササキさん!」
「えー。じゃあほら、外壁が割れなくて良かったじゃない、という事で」
「より最悪のアイディアしか無いのかこの人には」
「ええいっ、やかましいわっ。すっかんぴんの私たちは
よりポジティブに生きなくてはならないのよ!」
ばん、とテーブルを叩いて主張するササキ。
ある意味その通りではあるのだが、だったら毎朝ポーカーをやるのは
どうなんだという視線が食堂中から集まってきていた。
牛の群れ
こんなヤツらでした

「明日は豚の大群だったらどうしよう……」
遠い目をしたまま女のスタッフが言う。
「象でないだけましじゃない」
ササキはさらりと言った。
こうして人の魂は鍛えられていくのだろうか。
ウィルソンはちゃっかりササキのトレイからポテトをとりながらそう思った。


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