すっかんぴんになる ファームではたらく

郊外ファームタイプの遊園地、正式名称をめいぷるシーランドというこの場所は、
紅葉国で開発中の船舶属性都市船のテストヘッドをまるまる一つ使い切った
巨大施設である。
ちなみにこのテストヘッド、元々は動けるはずだったのだが、
その質量に対して充分な出力のエンジンが開発できなかった関係上、
中身=施設他を詰めると動けなくなる。
この関係上別名沈没船とも言われていた。
円筒状である形から連想して魚取りとも呼ばれるが、
こちらはあまり一般的ではない。
この三層構造の試作型都市船は、次のように空間わけされている。
上層を緑溢れるファームとし、外縁部をモノレールで移動しながら
区画ごと異なる動物とふれあえる施設となっている。
また、中層目は生産品の加工工場や売店を含む各種施設群となっており、
下層はドームと同じく各種交通機関発着場とされていた。
めいぷるシーランド外観
めいぷるシーランド外観
これらの施設は一応観光施設としても使えるようにはされているが、その主な目的は生物資源の生産能力にある。
木々のプランテーションや、さまざまな動物を揃えた牧場。
ライフサイクルを考慮に入れたこれらの生態系の上で、得られる材木や分泌物、動物の皮や骨など、さまざまな生物資源が得られるように設計されていた。
これらが流通することで、将来的には加工業などの発展が見込まれると言われている。

――そしてもう一つ。

「はい。じゃあ今日からあなたの所属するグループの担当になるササキです。よろしくお願いします」
「うい、よろしくお願いします」
「うい?」
「あ、すみません。はい」
「まあ接客は無理そうね、君」
ずばんと言い切ったのは南国人の女性である。
このファームの従業員の一人で、今日からウィルソンの所属する作業グループのリーダーでもあった。
場所はファームの中層、事務室。
ウィルソンはモスグリーンの作業着、ササキも同じ服の上にリーダー用のオレンジの腕章をつけている。
二人は机を挟んでパイプ椅子に座っていた。

ウィルソンの記憶にあったのは、政府による職業斡旋の話だった。
それを知ったとき、また遊園地なんかを作るのかーと職場の同僚はいやぁな顔をしたし、
ウィルソンもまたリゾートホテルで働きながら同じようなことを考えた物だった。
しかしその施設では、賭博ですっかんぴんになった人を身受けして作業員としてやとってくれるというのであった。
しかも寮、食事、風呂付き。
この点ぶっちゃけるとファームの儲けの全てが還流されていた。

つまりは。
この施設はすっかんぴんのための生活支援施設でもあるのだった。

「まああなたみたいに運もないのに賭博に興じてパンツ一丁でやってくる輩もそういないわけじゃないのよね」
「う。お恥ずかしい限りです」
ササキは淡々と話ながら、苦笑した。
「まあ、いいんじゃない? これに懲りてきりきり働いて再出発すれば。
自分を賭けて博打うってひどいことになるよりはマシよ。
私だって体売るかどうかっていう所だったんだから」
「え?」
「あー、いや、なんでもないわ」
ササキは苦笑すると、ぱんぱんと手を叩いた。
「さ。仕事仕事。ここにはあんたみたいなすっかんぴんや一文無しの類がわんさかといるからね。
容赦はしないよ。精々気張って働くこと!」
「ういっす」
「はい?」
「あ、はい!」


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